
「常位胎盤早期剥離」を知っていますか?妊娠中には様々な病気や合併症が発症するリスクがあります。
その中で母体と赤ちゃんどちらも非常に危険な状態になるリスクがある病気が常位胎盤早期剥離です。
この記事では、常位胎盤早期剥離とは何か、母体と赤ちゃんへの影響について解説します。いざというときに対応できるよう、正しい知識を身につけましょう。
常位胎盤早期剥離とは
常位胎盤早期剥離とは、お腹の中に赤ちゃんがいるにもかかわらず、突然胎盤が先に剥がれてしまう病気です。
常位胎盤早期剥離は全妊婦の中で0.5%〜1%の確率で発症する病気です。かなり低い確率ですが、常位胎盤早期剥離になった場合、25〜30%の赤ちゃんは亡くなると言われています。
稀な病気ではありますが、発症すると母子ともに危険が及ぶ恐れがあり、非常に重大な病気です。
妊娠中は胎盤からへその緒を通して赤ちゃんへ酸素や栄養を送っています。通常の出産では、赤ちゃんが生まれてから胎盤が剥がれます。しかし、常位胎盤早期剥離の場合、前触れもなく赤ちゃんが生まれる前に先に胎盤が剥がれてしまうのです。
赤ちゃんが生まれるより前に胎盤が剥がれてしまうと、赤ちゃんは酸素や栄養などがもらえず、非常に危険な状態になってしまいます。
どんな人がなりやすい?
常位胎盤早期剥離はなぜ発症するのかわかっていません。しかし、発症しやすくなるリスク要因はわかっています。
- 過去に常位胎盤早期剥離になった
- 妊娠高血圧症候群
- 喫煙
- 早産や切迫早産
- 腹部の外傷(転倒でお腹を打った、事故など)
- 高齢妊娠
- 体外受精などの高度不妊治療での妊娠
- 子宮内感染など
気をつけることができない要因もありますが、喫煙については自分自身で気をつけることができます。
また、妊娠高血圧症候群の場合、常位胎盤早期剥離の発症リスクが高いという報告もあります。
もともと高血圧で治療をしていた方や、妊娠高血圧と診断された方は発症リスクが高いということを知っておきましょう。
いつ頃起こりやすい?
常位胎盤早期剥離は妊娠32週以降に発症しやすいと言われていますが、いつでも発症する可能性があります。
妊娠後期(妊娠28週以降)や臨月でも発症する可能性があることを知っておきましょう。
常位胎盤早期剥離の症状
常位胎盤早期剥離の主な症状は以下のとおりです。
- 持続する腹痛
- 性器出血(量は少量・多量どちらもあり)
- 頻回なお腹の張り
- 急激な下腹部の痛み
- 胎動がわかりにくくなる、感じない
- お腹がずっとかたい、カチカチになる
すべての症状が出るときもありますが、徐々に症状が出る場合もあります。
常位胎盤早期剥離は前触れなく発症する病気のため、急激に症状が悪化する場合が多いです。
無症状の場合もある
出血しない場合や、お腹の痛みがない場合など、症状が軽度で気がつかないこともあります。特に常位胎盤早期剥離が発症してすぐは、症状だけで判断できないでしょう。
医療機関を受診し、超音波検査や赤ちゃんの心拍を確認してはじめてわかる場合もあります。
陣痛の痛みとの違いは?
症状のひとつにお腹の張りがありますが、お腹の張りが増えた場合、陣痛ではないか?と思う方もいるでしょう。症状の出方によっては陣痛かどうか判断することは難しいかもしれません。陣痛との大きな違いは持続するお腹の張りや痛みがあるかどうかです。
陣痛の場合、お腹が張り始めて徐々に痛みが出て、ピークをすぎると張りや痛みはおさまります。
しかし、常位胎盤早期剥離の場合、お腹の痛みや張りは持続します。ずっと休みなく痛みがあり、お腹がカチカチに張ることが多いです。
ただ、陣痛か常位胎盤早期剥離かを自分で判断することは難しいでしょう。そのため、不安な症状があればすぐに医療機関に相談し、受診を検討しましょう。
赤ちゃんへの影響
胎盤が先に剥がれてしまっているため、赤ちゃんは酸素も栄養もない、非常に危険な状態になります。そのため、一刻も早く分娩することが大切です。
また、赤ちゃんが生まれても酸素が不足した状態であったため、脳性麻痺などの障害が残ることもあります。
母体への影響
常位胎盤早期剥離になった場合、母体も命の危険があります。剥がれた胎盤の部分から出血し子宮の中に大量出血をすることがあります。
大量に出血した場合、血を止める成分が機能しなくなり、更に出血が止まらなくなってしまう「DIC(播種性血管内凝固症候群)」という状態になったり、ショック状態になったりすることがあるでしょう。
その場合、赤ちゃんが生まれた後も子宮から出血が続き、弛緩出血が起こりやすく、輸血治療をする場合もあります。出血が止まらない場合、母体の命を助けるために、子宮を摘出する場合もあります。
常位胎盤早期剥離の検査方法
お腹がずっとカチカチに張っている、出血がある、急に下腹部が痛むなど、常位胎盤早期剥離が疑われる症状があれば、まず超音波検査をします。
そこで胎盤が剥がれているような状態ではないか確認します。
その後、赤ちゃんの心拍とお腹の張りを確認するNST(ノンストレステスト)を実施します。
そこで、お腹の張りと赤ちゃんの状態を確認し、常位胎盤早期剥離と診断されたらすぐに緊急帝王切開となります。
妊娠36週未満の場合は、赤ちゃんの治療が必要なため、NICU(新生児集中治療室)のある総合病院に緊急搬送となるでしょう。
常位胎盤早期剥離の治療方法
剥がれた胎盤が元に戻ることはないため、常位胎盤早期剥離と診断されたら、早急な出産が行われます。基本的には緊急帝王切開です。
先述したとおり、出血が増えてショック状態になることもあるため、分娩とともに出血を止めるため、輸血や輸液の投与などが行われます。
常位胎盤早期剥離の予防方法はある?
非常にこわい常位胎盤早期剥離ですが、残念ながら現時点で予防方法はありません。
しかし、正しい知識を持ち、異変にすぐ気づけるようになることで、早期発見につながります。
早期発見がカギ
常位胎盤早期剥離は進行が早く、発症後早期の対応で赤ちゃんと母体の予後が大きく変わります。そのため、早期発見が大切です。
以下のような症状がみられたら、医師に相談しましょう。
- 少量の出血が続く
- お腹の張りがいつもより多い
- 急にお腹の痛みが強くなった
- 胎動がわかりにくい
- 胎動が弱くなった
妊婦検診を定期的に受けることはもちろん、普段と違う様子があればかかりつけ医に相談しましょう。
日常生活での注意点
常位胎盤早期剥離に予防方法はありません。しかし、リスクとなる行動を避けることは非常に大切です。
日常生活では以下の内容に気をつけましょう。
禁煙・分煙
禁煙・分煙は今からでもすぐにできます。また、唯一自分で注意できる予防方法です。妊娠中の喫煙は常位胎盤早期剥離のリスクが高くなるだけでなく、早産や流産、低出生体重児など様々なリスクがあります。
妊娠がわかったらすぐに禁煙をしましょう。パートナーや家族が喫煙する場合は、安全に妊娠期間を過ごすためにも分煙を心がけましょう。
体重管理
体重の適切なコントロールも大切です。
体重の急激な増加は妊娠高血圧症候群のリスクが高くなります。適切な体重管理は妊娠中のリスクを最小にするために必要です。妊娠前のBMIによって妊娠中の体重増加目安は異なりますので、以下の基準を参考にしてください。
妊娠前BMI | 推奨体重増加量 |
---|---|
18.5 | 12~15kg |
18.5以上25未満 | 10〜13kg |
25~30 | 7~10kg |
30以上 | 上限5kgを目安に |
急激な体重増加は血圧があがりやすくなるだけでなく、むくみの原因にもなります。1週間で300〜500gの体重増加が目安です。
体重計にのる習慣がない人も、妊娠中は週に1回程度は体重計にのり、自分の体重を把握しましょう。
食事制限をするほど厳格に体重管理をする必要はありませんが、大まかな目安を知っておきましょう。
胎動に気をつけよう
胎動は赤ちゃんがママに元気だよ!と送っているサインです。胎動はお腹の中の赤ちゃんの様子を知るために非常に大切です。
そのため、日頃から胎動を気にかけましょう。具体的には、胎動カウントをしましょう。
胎動カウントとは、10回の胎動を感じるまでにどの程度の時間がかかるかをチェックする方法です。胎動カウントは以下の方法で実施します。
- 赤ちゃんが動き始めてからカウントを開始する
- リラックスした姿勢でカウントする
- 胎動が感じにくい場合は体を横にする
- しっかり動いたタイミングからカウントする
- 動き始めから終わるまでを1回とカウントする
赤ちゃんはお腹の中で寝て起きて20〜30分のサイクルで繰り返しています。そのため、胎動カウントを始めるタイミングで寝てしまうこともあるでしょう。
通常、30分程度で10回カウントできますが、胎動の感じ方には個人差があります。1時間程度赤ちゃんの動きを感じなくても問題ありませんが、10カウントするまでに1時間以上かかる場合や胎動が普段より弱い場合はすぐに病院に連絡しましょう。
普段と違う場合はすぐに連絡しよう
常位胎盤早期剥離は、発症すると急激に症状が進行する病気です。また、母子ともに命の危険が高く、早期発見が非常に大切です。
前兆が無く急に発症するため、予防方法などはありません。しかし、正しい知識を得ることで、適切な対処方法がとれます。
普段からお腹の張りや赤ちゃんの胎動を確認するようにしましょう。お腹の中の赤ちゃんとママの体を守るためにも、普段と様子が違うなと思ったら、すぐに病院に連絡してください。
