
長い妊娠期間と大変なお産を終え、ホッとしたのも束の間、すぐに赤ちゃんとの生活がスタートします。幸せを感じる瞬間がある一方で、不安や負担を感じることも少なくありません。
そんな、赤ちゃんとの生活をサポートしてもらえる「産後ケア事業」をご存じでしょうか。
この記事では、赤ちゃんとの暮らしの中で困りごとを抱えていたり負担を感じている方に向けて、「産後ケア事業」について詳しくご紹介します。
「身体や心がつらい」「育児に不安がある」「誰かに話を聞いてほしい、助けてほしい」——そんな思いを抱えている方は、ひとりで抱え込まず、ぜひ記事を最後まで読んでみてください。
産後ケア事業とは?

産後ケア事業とは、出産後1年以内の母子を対象に、お住まいの市区町村などの自治体から受けられる育児支援サービスです。
初産婦・経産婦にかかわらず、赤ちゃんとの新しい生活は、これまでの生活とは大きく変わります。出産を経て心身ともに大きな変化があるなか、不安や負担を感じるママは少なくありません。
そんなママと赤ちゃんをサポートするための施策が「産後ケア事業」です。
産後ケア事業を利用できる人の条件
令和6年10月に交付された「産前・産後サポート事業ガイドライン 産後ケア事業ガイドライン」において、産後ケア事業の利用対象者は以下のように定められています。
”対象者 妊産婦及びその家族のうち、下記①~③を基に、市町村の担当者がアセスメント し、対象者を決定する。
- ①妊娠・出産・育児に不安を抱えていたり、身近に相談できる者がいないなど、 相談支援や交流支援、孤立感の軽減・解消が必要である者
- ②多胎、若年妊婦、特定妊婦、障害児又は病児を抱える妊産婦及びその家族で社会的な支援が必要である者
- ③地域の保健・医療・福祉・教育機関等の情報から支援が必要と認める者
引用元:厚生労働省|産前・産後サポート事業及び産後ケア事業ガイドライン
また、対象となる時期については「産後1年頃まで」が目安とされていますが、ママと赤ちゃんの状況やニーズに応じて、自治体ごとに対象時期を設定できるようになっています。そのため、お住まいの自治体によって対象期間が異なる場合があります。
詳しくは、お住まいの市町村の公式ホームページなどでご確認いただくのがおすすめです。
産後ケア事業はこんな人におすすめ

産後ケア事業は、以下のようなお悩みを抱えている方にとって、必要な支援を受けられる大切な制度です。当てはまる方は、ぜひ利用を検討してみてください。
産後の体や心の変化に不安やつらさを感じている方
出産は、ママの体に大きな負担がかかるものです。しかし、体が回復する前に育児がスタートするため、慢性的につらさを感じてしまう方も少なくありません。
- 会陰切開の傷が痛む
- 悪露が止まらない
- 骨盤のゆるみや腰痛がある
- 尿漏れがひどくなった
上記のような産後のマイナートラブルは、なかなか人に相談しづらく対処法に悩んでしまう人も多いです。
また、心の不調が見えづらい分、知らず知らずのうちにストレスをためてしまうこともあります。
- 気持ちが落ち込んでしまう
- 赤ちゃんを可愛いと思えない
- 睡眠不足でつらい
- 理由もなく涙が出る
こうした状態が続く場合は、心身のダメージが蓄積している可能性があります。
もちろん、ここで挙げたもの以外でも「つらい」と感じているなら、それは立派なサイン。体や心に不安やつらさを感じているママは、産後ケア事業を利用してみるのがおすすめです。
赤ちゃんのお世話に不安を感じている方
初産で初めて育児をする人は、赤ちゃんのお世話について「これでいいの?」という不安を感じる人も多くいます。
- 母乳育児やミルク育児について悩んでいる
- お世話の仕方に自信が持てない
- 思うようにお世話できない
- 赤ちゃんの体重の増え方に不安がある
また、経産婦であっても赤ちゃんはそれぞれに個性があり、上の子供での育児経験が通用しないことも少なくありません。さらに、兄弟がいるからこそ出てくる不安もあるでしょう。
- 最新の育児の考え方が知りたい
- 上の子を育児した時と全然違って戸惑ってしまう
- 上の子の育児をしながら下の子の育児をすることに不安がある
上記のような不安を感じている人は、産後ケア事業を利用することで不安を解消する糸口を見つけられるかもしれません。
育児の相談をできる人が近くにいない方
引越し先で出産したり、実家が遠方で頼れる人がいなかったりなど、育児の悩みを相談できる人が身近にいないケースもあります。
現在はSNSなどで、同じ時期に出産した人や先輩ママと知り合いになり、ネット上で育児についての相談をする人も増えています。もちろん、有益な情報を得られたり悩みを解消できたりすることもありますが、一方で顔も知らない人の心無い一言で酷く傷付いてしまうことも少なくありません。
直接顔を見て、状況を見て、赤ちゃんを見て、悩みに寄り添ってくれる存在がいるというのは、育児中にとても心強いものです。
たとえ赤ちゃんやご自身にトラブルがなくても、「育児を相談できる相手がいない」という孤独感を抱えているなら、それも十分な理由になります。産後ケア事業の利用をぜひ検討してみてください。
産後ケア事業ではどのような支援を受けられるの?

産後ケア事業では、大きく分けて3つのサポートを受けることができます。
1.ママの体と心のケア
産後ケア事業では、ママの身体的・精神的な不安や負担に対するケアを行っています。具体的な例として、以下のような支援が挙げられます。
- 赤ちゃんを預かり、ママの休息や睡眠時間を確保
- 栄養バランスのとれた食事の提供
- 会陰切開の傷や悪露、尿漏れなどマイナートラブルに関する情報提供や対処方法の指導
- マッサージなどによる身体の不調の改善
- 骨盤体操の指導
- 乳房マッサージの実施
- 不安や悩みに対するカウンセリング支援
身体や心に不安や負担を感じているママが、安心して育児に向き合えるような支援が受けられます。
2.赤ちゃんのお世話に関する相談・指導
初めて赤ちゃんのお世話をする人や、育児に対してブランクがある人、最新の育児について知りたい人にも対応しています。以下のような内容について相談や指導を受けることができます。
- 授乳・搾乳の方法に関する指導やアドバイス
- 沐浴、着替え、おむつ替え、抱っこなど基本的な育児方法の指導やアドバイス
- 離乳食の開始時期や与え方についてのアドバイス
- 赤ちゃんのスキンケアの方法
- 赤ちゃんの発育・発達チェック
例えば、「ミルクの調乳方法がわからない」といった些細な内容でも気軽に相談でき、直接的なサポートを受けられる点が安心につながります。
3.赤ちゃんとの生活に関する相談支援
赤ちゃんが生まれることで生活は大きく変化します。以下のような、ママやご家庭が抱える生活上の不安や困りごとに対しても支援を受けられます。
- 産後の生活に関する悩みや相談への対応
- 地域の子育て支援情報の提供
- 保育サービスや保育施設に関する情報の提供
- 地域コミュニティや交流の場の紹介
- 育児に関して利用可能な補助金・助成金などの情報提供
身近に育児の相談ができる人がいない方や、赤ちゃんの誕生により生活面での不安や困りごとを抱えている方からのご相談にも対応しています。
産後ケア事業の種類
産後ケア事業には、大きく分けて3つの支援形態があり、自分のライフスタイルや状況に応じて、希望に合った支援を選ぶことができます。ご家庭の事情に合わせて柔軟に選択できる体制が整っている点も、産後ケア事業の大きな魅力です。
宿泊型支援(ショートステイ)
宿泊型支援では、産後ケア事業と提携している医療機関・助産院・産後ケアセンターなどに宿泊しながら支援を受けることができます。
これらの施設には、24時間体制で1名以上の助産師・保健師・看護師などを配置することが義務づけられているため、安心して利用できます。原則として、利用期間は7日以内と定められていますが、ママや赤ちゃんの状態や生活状況によっては延長が可能な場合もあるため、希望があれば事前に相談してみましょう。
- 夜泣きなどで寝不足が続いていてつらい
- 育児をサポートしてくれる人が周囲にいない
- 育児に不慣れで不安が大きい
上記に当てはまる人が安心できるよう、赤ちゃんを一時的に預かってもらったり、1日を通してお世話の指導を受けられたりすることで、心身の負担を軽減できます。
日帰り型支援(デイサービス)
日帰り型支援では、産後ケア事業と提携している医療機関・助産院・産後ケアセンターなど、提携している施設へ日帰りで通所して支援を受けることができます。
通所中は赤ちゃんを一時的に預けたり、育児に関する悩みを相談することができ、少しの時間でも赤ちゃんと離れることで気分をリフレッシュする効果も期待できます。
また、身近に頼れる人や知り合いがおらず、孤立を感じているママにとっては、同じような境遇のママや赤ちゃんと一緒に支援を受けられる集団型の施設もあります。
同じ立場の人とつながることで孤独感がやわらぎ、今後の育児において相談できる相手や、悩みを共有できる仲間が増えるきっかけにもなるでしょう。
- 通所で心身のケアを受けたい
- 上の子やペットがいて宿泊が難しい
- 少しの時間だけ赤ちゃんと離れて休みたい
- 赤ちゃんのお世話について指導やアドバイスが欲しい
- 育児を相談できる知り合いが欲しい
上記に当てはまる人にも、おすすめの支援形態です。
訪問型支援(アウトリーチ)
訪問型支援は、助産師や保健師が自宅を訪問して支援を行います。
家庭での様子を見ながら、実際に使用している育児用品に合わせた実践的なアドバイスを受けることができます。
例外はあるものの、原則として無料で提供されているケースが多いのも大きな特徴です。
特に、障害や病気を持つ赤ちゃんや多胎児の場合は、宿泊や通所のために外出すること自体が困難な場合も少なくありません。外出が困難だからというケースでは、自宅で赤ちゃんを預かってママの休息時間を確保してくれることもあります。
産後ケア事業は無料?有料?
産後ケア事業は、国や市町村などの自治体による助成を受けられる制度ですが、一部の費用は自己負担となるため、基本的には有料です。
とはいえ、例えば宿泊型の一般的な産後ケアサービスでは1泊2日あたり2〜10万円程度かかるところ、産後ケア事業を利用することで1万円以下で利用できる自治体もあります。助成内容や自己負担額は自治体によって異なるため、お住まいの地域の制度を確認してみるとよいでしょう。
例として北海道札幌市の産後ケア事業利用料をみてみましょう。
| 宿泊型 | 日帰り(デイサービス)型 | 訪問(アウトリーチ)型 | |
|---|---|---|---|
| 対象 | 生後6カ月未満 | 生後1年未満 | |
| 基本的な利用時間 | 11時~翌15時 | 11時~15時 | 9時~17時の間の2時間 |
| 利用料 | 1泊あたり7,500円 | 1日あたり2,500円 | 1回あたり2,500円 |
| 利用回数の上限 | 宿泊・日帰り合わせて通算7日以内 (1泊2日の場合、2日間とカウント) |
訪問型だけで6回以内 | |
※利用時間は施設により異なる場合あり
※施設によって利用可能な月齢を定めている場合あり
金銭的な理由でサービスの利用が難しい方に向けて、住民非課税世帯や生活保護世帯を対象とした利用料の減免措置が設けられている場合もあります。費用面で不安がある方も、まずは一度自治体へ相談してみることをおすすめします。
産後ケア事業を利用する方法
産後ケア事業を利用するには以下の2つ方法があります。
- 市区町村の役場で手続きを行う
- 利用を希望する施設に直接連絡して申し込む
インターネットで検索する際は、
「産後ケア事業+〇〇市(お住まいの市区町村名)」
と入力すると、自治体の該当ページが見つけやすくなります。
産後ケア事業は自治体が管轄しているため、申し込み方法や必要書類、利用条件は自治体によって異なります。まずは、お住まいの自治体の公式ホームページや広報誌で、対象者・サービス内容・申請方法などの情報をご確認ください。
また、体調や育児の状況でご自身で調べることが難しい場合は、市役所や区役所の担当課へ電話で問い合わせるのもおすすめです。
申請後は、自治体が利用可否を決定します。問題がなければ「産後ケア事業利用承認通知」が発行され、希望する日程で支援を受けるという流れが一般的です。
民間の産後ケアホテルを利用するという選択肢も
資金面で余裕があり、産後ケア事業の利用承認などを待たずにママや赤ちゃんのケアを受けたい場合は、民間の産後ケアホテルを利用するという方法もあります。
産後ケアホテルでは、出産後のママや赤ちゃんのケアを目的としたサービスが提供されており、一般的なホテルのような環境でゆっくりと体や心を休めることが可能です。
民間サービスなので、提供されるサービスの種類や質などはホテルごとに異なりますが、多くの産後ケアホテルでは、助産師、看護師、保健師などからケアを受けられたり、赤ちゃんの預かりサービスや食事の提供などが受けられたりします。
施設によってはアロママッサージやエステなどのサービスを提供していることもあるため、希望する施設を探してみるとよいでしょう。
ただし、民間施設だけあって費用は比較的高額となるケースが多いです。相場としては1泊2日で2~10万円、日帰りのデイサービス型では1回1~3万円となっています。自治体によっては、ふるさと納税の返礼品として産後ケアホテルの宿泊券を受け取れるものもあるため、お得に利用できる方法を探してみるのもおすすめです。
まとめ
赤ちゃんの誕生は、家族に大きな喜びと幸せをもたらしてくれます。
しかし、育児は決してきれいごとばかりではなく、思い通りにいかないことや、戸惑い、つらさを感じる場面も少なくありません。
時には、頼れる人がいないと感じて孤独になったり、すべてが嫌になってしまったりすることもあるかもしれません。
そんな時は、どうか誰かに頼ることをためらわないでください。
苦しみや不安を抱えているあなたを責める人は、誰もいません。
あなたと赤ちゃん、そしてご家族が笑顔で過ごせるように、産後ケア事業はあります。
「つらい」と感じたら、まずは相談してみてください。
きっと、あなたの気持ちに寄り添ってくれる支援があります。
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当院は、石狩市・札幌市・当別町の産後ケア事業の受け入れ施設です。
詳細は、以下のページにてご案内しております。